東京地方裁判所 昭和62年(ワ)6517号 判決 1990年11月21日
アメリカ合衆国カリフオルニア州 コンプトン グラツドウイツクストリート 二〇〇六
原告
ウインドサーフイン インターナシヨナル インコーポレイテツド
右代表者
ホイール シユバイツアー
東京都渋谷区本町一丁目六〇番三号
原告
勝和機工 株式会社
右代表者代表取締役
鈴木東英
原告ら訴訟代理人弁護士
三宅正雄
安江邦治
右訴訟復代理人弁護士
串田誠一
右輔佐人弁理士
松永宣行
大阪市港区弁天一丁目六番三五号
被告
日本アクアポリス 株式会社
右代表者取締役
名倉基之
右訴訟代理人弁護士
大場正成
尾﨑英男
大平茂
右当事者間の昭和六二年(ワ)第六五一七号特許権損害賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告ら各自に対し、二一〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告勝和機工株式会社(以下「原告勝和機工」という。)に対し、六六〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1(一) 原告ウインドサーフイン インターナシヨナル インコーポレイテツド(以下「原告ウインドサーフイン」という。)は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有していた。
特許番号 第六三〇三五二号
発明の名称 風力推進装置
出願日 昭和四四年三月一一日
公告日 同四六年五月三一日
登録日 同四七年一月一一日
存続期間満了の日 同六一年五月三一日
(二) 原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウインドサーフインから、次のとおり、範囲を日本国全域とする独占的通常実施権の許諾ないし専用実施権の設定を受けていた。
(1) 昭和四九年八月二〇日から同五六年三月二七日まで 独占的通常実施権
(2) 同五六年三月二八日から同五九年八月二〇日まで専用実施権
(3) 同五九年八月二一日から同六一年一月二七日まで独占的通常実施権
(4) 同六一年一月二八日から同年五月三一日まで
専用実施権
2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(ただし、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づき訂正したもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許審判請求公告中の訂正明細書(以下「本件訂正公報」という。)の特許請求の範囲の項記載のとおりである。
3 被告は、昭和五八年八月頃から同六一年五月三一日までの間、業として、別紙目録記載の風力推進波乗り装置(以下「被告製品」という。)を販売した。
4 被告製品は、次に述べるとおり、本件発明の構成要件をすべて充足し、その作用効果も本件発明のそれと同一であるから、本件発明の技術的範囲に属する。
(一)(1) 本件発明の構成要件は、次のとおりである。
A 使用者を支持する本体装置である波乗り板があること
B 推進力として風を受け入れる風力推進手段があること
C 前記風力推進手段は、
ア 円柱と、
イ 該円柱に長い端縁部で取り付けられた帆と、
ウ 前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互いに連結され、かつ、一端で前記円柱に、また、他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のプームと、
エ 該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニパーサルジョイントと
を備えることを特徴としていること
(2) 本件発明の作用効果は、次のとおりである。
波乗り板に帆を設けることによつてこれを水上ボートにかえる場合、突風や激風によつて波乗り板が転覆する危険性が大であつたが、本件発明は、突風又は激風が襲つた場合、使用者が帆から手をはなし風力により帆を風下に倒すことにより、本体装置の転覆を免れることができるようにしたものであり、更に、使用者がブームを把持し、風向きに対し、帆の位置及び角度を調節するだけで、波乗り板を使用者の望む方向に進行させることができるという作用効果を有する。
(二)(1) 被告製品は、別紙目録記載のとおりの構造であるところ、いずれも、
ア 波乗り板である本体装置(ボード部)a(被告製品についてのa、b等の記号は、別紙目録記載の記号を指す。)を有し、かつ、同装置は、使用者を支持する働きを有しているので、本件発明の構成要件Aを備えており、
イ マストcにその一辺を嵌装されたセイルbが存在し、また、マストcの下端部はゴム・ジョイントkの上部に嵌合され、右ゴム・ジョイントkの下端部は本体装置(ボード部)aに結合され、セイルbが別紙目録三3に記載する態様の作動(作用効果)をするから、推進力として風を受け入れる風力推進手段を有するものであり、したがつて、本件発明の構成要件Bを備えており、
ウ マストc、セイルb、一対のブームd及びマストcを本体装置(ボード部)aに回転及び起伏自在に連結するゴム・ジョイントkを備え、かつ、各部材は、別紙目録三1ないし3に記載する態様の作動をするから、本件発明の構成要件Cを備えている。
(2) 被告製品の作用効果は、本件発明のそれと同一である。
5 原告ウインドサーフイン及び原告勝和機工は、原告勝和機工製造に係るセイルボード(以下「原告製品」という。)を原告勝和機工の子会社である訴外ウインドサーフイン・ジヤパンを通じて販売していた。
被告は、原告ウインドサーフインが本件特許権を有し、かつ、原告勝和機工が前記1(二)のとおり独占的通常実施権ないし専用実施権を有することを知りながら、昭和五八年八月頃から同六一年五月三一日までの間、被告製品を少なくとも二八〇〇艇販売した。
原告らは、被告の右行為により、原告製品の販売数量が少なくとも二八〇〇艇、金額にして三億五八〇〇万円減少したため、次のとおり損害を被つた。
(一) 原告勝和機工が原告製品を販売して得る利益は、販売価格の二五パーセントであるから、失つた利益の額は、少なくとも八九五〇万円(三億五八〇〇万円×二五パーセント=八九五〇万円)を下らない。
(二) 原告ウインドサーフインは、原告勝和機工に対する本件特許権の独占的通常実施権の許諾ないし專用実施権設定の対価として、正味販売価格の六パーセントに相当するロイヤリティーを受ける権利を有していた。したがつて、原告ウインドサーフインは、原告勝和機工が三億五八〇〇万円相当の原告製品の販売をすることができなかつたことにより、その六パーセントに相当する二一四八万円のロイヤリテー収入を失い、これと同額の損害を被つた。
6 よつて、原告勝和機工は、被告に対し、前記5(一)の損害八九五〇万円(ただし、うち二一四八万円は、原告ウインドサーフインの請求と不真正連帯債権)のうち八七〇万円、原告ウインドサーフインは、被告に対し、前記5(二)の損害二一四八万円(ただし、原告勝和機工の請求と不真正連帯債権)のうち二一〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1(一) 請求の原因1(一)は認める。
(二) 同1(二)のうち、原告勝和機工が原告ウインドサーフインから、(2)及び(4)のとおり、範囲を日本国全域とする専用実施権の設定を受けていた旨特許登録原簿に記載されていることは認め、その余は知らない。
2 同2は認める。
3 同3のうち、被告製品について商品名一覧表中、次の製品が同目録第2図記載のゴム・ジョイントを有していることは否認する。したがつて、次の製品は、目録記載の構造及び作動態様を有しない。
DUFOUR WING
SUN
BIO STAR
TEEN
SHOW
KEN W工NNER
HERVE BORDE
TTGA ONE
ONE HAWAII STD
ONE HAWAII NP
FUN CUPのうち昭和五九年販売の分
SPRINTのうち昭和五九年販売の分
JUMP
JIBE
GUN
SLALOM
WAVE
同3のその余の事実は認める。
4 同4(一)(1)は認め、同(一)(2)の作用効果は、公知技術において存在していたものである。
同4(二)(1)のうち、被告製品(別紙目録記載の製品のうち、被告が原告の主張を認めた製品を指す。被告の主張において以下同じ。)に使用者を支持する本体装置である波乗り板があること(構成要件A)及び推進力として風を受け入れる風力推進手段があること(同B)は認め、その余は否認する。被告製品は、後記のとおり、ユニバーサルジョイントを備えておらず、構成要件Cエを充足しない。
5 同5のうち、原告ウインドサーフインが原告勝和機工から受けるロイヤリテイーが正味販売価格の六パーセントであることは知らない、その余の事実は否認する。
三 被告の主張
被告製品は、以下のとおり、本件発明の構成要件Cエを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しない。
1 本件明細書の特許請求の範囲の項には、「該風力推進手段が……該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントを備える」と記載されている。右特許請求の範囲の項の記載によれば、本件発明の風力推進手段である「ユニバーサルジョイント」は、帆を波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するという機能を有するユニバーサルジョイントである。このように、円柱と波乗り板を連結する手段、つまり、「ジョイント」には、特許請求の範囲の記載上、「ユニバーサルジョイント」という概念的に表現された限定と、「帆を波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結する」という機能的に表現された限定との二重の限定が付されているのである。原告らは、帆を波乗り板上で回転及び起伏させることができるように円柱を波乗り板に連結するジョイントであれば、すべてユニバーサルジョイントであるかのように主張しているが、特許請求の範囲には、「ジョイント」ではなく、「ユニバーサルジョイント」と明記されているのであるから、「ユニバーサルジョイント」を「ジョイント」と読み替えるような主張をすることはできない。
ところで、明細書に用いられている用語は、原則として、その有する通常の意味に解釈されるべきものである。右原則の例外は、出願人が、明細書において、ある用語を通常の意味と異なる意味に明示的に定義している場合である。
これを「ユニバーサルジョイント」という用語についてみるに、この用語には当業者が理解するある一定の概念が存在し、また、出頭人は、本件明細書において、この用語を通常の意味と異なる意味に明示的に定義してはいないのである。
そこで、「ユニバーサルジョイント」の概念について調べてみると、この語には「自在継手」という訳語が与えられている。そして、この自在継手というのは、株式会社技報堂の昭和三〇年一一月二五日初版発行の「メカニズム」(乙第二号証の一ないし三)によれば、二つの軸を結合する継手であつて、その特徴は、各軸を直交する二本のピンのような二軸の周りにそれぞれが回動可能なように組み合わせて連結した継手である。そのうち、11のフツク式自在継手は、両軸端がフオーク形をし、それぞれが十字形の腕とピンで連結されることにより、十字形腕の直交する二軸の周りに回動可能となつている。12のフツク式自在継手は、両軸端がそれぞれ球形とソケツト形をしており、中間のリングに取り付けた十字ピンによつて連結されることにより、十字ピンの直交する二軸の周りにそれぞれ回動可能となつている。13の自在継手は、両軸頭が互いに直角に球を抱くように連結され、球の直交する二軸の周りに回動可能となつている。このような自在継手の具体的な例から、当業者がユニバーサルジョイント(自在継手)という言葉について抱く概念を知ることができる。すなわち、ユニバーサルジョイントの概念には、二つの軸A、Bを結合する継手の要素として直交する二つの軸X、Yが存在し、軸Aは軸Xの周りに軸Bは軸Yの周りにそれぞれ回動可能に組み合わされているという特徴がある。
本件発明にいう「ユニバーサルジョイント」は、右に説明した当業者が理解する通常の「ユニバーサルジョイント」の概念と合致しているのである。すなわち、本件明細書には、実施例として、三軸線ユニバーサルジョイント36(番号は、本件明細書記載のものを指す。本件発明について以下同じ。)の説明がされているが、このユニバーサルジョイントという用語は、右に説明した通常の概念を前提として用いられている。これを本件明細書の記載に基づいて述べると、三軸線ユニバーサルジョイント36は、相互に直交するピン48、62が水平の回転軸を構成し、ベース27及びクレビス58が各回転軸の周りに相対的に回転することができるようになつている(本件訂正公報二頁左欄二〇行ないし四四行)。このペース27、クレビス58及びピン48、62からなる構成は、前述の通常の意味において理解される「ユニバーサルジョイント」の概念構成を有している。また、三軸線ユニバーサルジョイント36では、帆の回転を可能とするために、ねじ68によつてクレビス58をダガボードに回転自在に取り付けてある(同二頁右欄三行ないし一五行)。更に、三軸線ユニバーサルジョイント36では、ピン48、62及びねじ68の三軸の回転が許容されている。本件発明の特許出願人がユニバーサルジョイント36を三軸線ユニバーサルジョイントと呼んでいるのは、通常のユニバーサルジョイントの概念を前提として、更にもう一軸回転軸が存在するためである。本件発明の特許出願人は、本件明細書において、「三軸線ユニバーサルジョイント36」を「ユニバーサルジョイント」あるいは「ユニバーサルジョイント36」とも呼んでいるのであるから、「三軸線ユニバーサルジョイント36」を回転軸が三軸あるという点で特殊な「ユニバーサルジョイント」という意味で用いていることは疑問の余地がない。
このようにみてくると、本件発明の特許請求の範囲の項にいう「帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」とは、実施例に示されている三軸線ユニバーサルジョイント36のような、回転及び起伏を可能とするユニバーサルジョイントのことであると理解することができる。ユニバーサルジョイントの概念自体には、帆を回転、起伏させる機能が当然に備わつているのではないが、実施例の三軸線ユニバーサルジョイントのような特殊な構造によつて、そのような機能を可能としているのである。本件発明の特許請求の範囲の項にいう「ユニバーサルジョイント」は、実施例の三軸線ユニバーサルジョイント36そのものに限定されることはないとしても、回転及び起伏を可能とするような構造を備えた「ユニバーサルジョイント」である。
2 本件発明の特許出願の経過は、昭和四四年三月一一日特許出願、同四六年五月三一日出願公告、同五八年七月二七日訂正審判請求、同六〇年一一月二〇日訂正審決というものであつた。
ところで、右出願の経過によると、本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初の明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の特許請求の範囲の項に記載されているとおり、「使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」というものであつた。この特許請求の範囲には、この風力推進装置が本体装置と風力推進装置とを包含すること及び風力推進装置の有する機能が記述されているが、風力推進装置がユニバーサルジョイントに限るというような限定は存在しない。もつとも、当初の明細書中には、「ユニバーサルジョイント」という言葉が四か所で用いられている。まず、図面の簡単な説明の項に、「第2図は第1図の線2-2における帆の旋回運動に使用するユニバーサルジョイントの断面図」(本件公報一頁一欄二〇行ないし二二行)と用いられており、また、発明の詳細な説明の項に、「円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。」(同二頁三欄三八行ないし四〇行)、「ユニバーサルジョイント36」(同三頁五欄五行ないし六行)と用いられている。そして、発明の詳細な説明の項中、訂正前の特許請求の範囲の記載に対応する記述の後に、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。」(同一頁二欄二五行ないし二九行)と記述されている。
右の当初の明細書の記載によると、訂正前の特許請求の範囲の記載には、継手の構成は含まれていないが、実施例において、「風力推進装置」は、三軸線ユニバーサルジョイントによつて乗物本体に連結されている、というのである。本件明細書では、実施例は一つしかないので、右の「特定の実施例」とは、第2図のことを述べているのは明らかであり、また、右の「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」という表現は、「ユニバーサルジョイント」が「三個の回転軸線を備えた接手」より上位概念にあることを示している。このことは、本件明細書の他の箇所で、出願人が第2図の継手36を「ユニバーサルジョイント36」と呼んだり、限定的に「三軸線ユニバーサルジョイント36」と呼んでいることと一致している。当初の明細書ては、「ユニバーサルジョイント」は、「特定の実施例」に用いられた継手を表現しており、「継手」一般とははつきりと区別している。更に、当初の明細書において、「ユニバーサルジョイント」は、「回転及び起伏を可能とする継手」一般でもないということである。ユニバーサルジョイントが帆の回転及び起伏を可能とすることは、訂正によつてはじめて導入された構成要件上の限定であつて、当初の明細書中には、そもそも一般的な「回転及び起伏を可能とする継手」という概念は存在しなかつたのである。当初の明細書のどこを捜しても、一般的な「回転及び起伏を可能とする継手」なるものは存在せず、ただ、特定の実施例として、「三軸線ユニバーサルジョイント36」が開示され、この具体的継手は、上位概念によつて「ユニバーサルジョイント」とも呼ばれていただけである。もちろん、特定の実施例の記載に基づいて、適法な範囲で、特許請求の範囲を訂正することは許されるが、そのときに使われた「ユニバーサルジョイント」という用語に、当初の明細書で与えられていたのと異なる意味を付与して解釈することはできない。原告らは、「ユニバーサルジョイント」の語を一般的な「回転及び起伏を可能とする継手」と読み換えようとしているが、これは、当初の明細書で用いられていた「ユニバーサルジョイント」という概念の持つ限定的意義を無視しようとするものであつて、認められない。
なお、前に引用した当初の明細書の発明の詳細な説明の記載には、「又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」という記述部分があるところ、「又は」と書かれているので、特定の実施例として、「ユニバーサルジョイント」を用いるものと「又は」以下の接手を用いるものとの二通りがあるかのようにも読めるが、本件明細書には実施例は一つしかないのであるから、このような解釈をとることができないのは明らかである。また、右の「使用者が操作しないとき推進装置を自由浮動状態にする」とは、当初の明細書の特許請求の範囲の記載中、「推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失う」との記載に対応しているから、「又は」以下の継手は、当初の明細書の特許請求の範囲記載の機能を有する継手を意味している。すなわち、前記引用部分は、特定の実施例で使用される三個の回転軸線を備えた接手が当初の明細書の特許請求の範囲記載の機能を有する継手であることを述べているものと理解される。「又は」の部分は、明細書の元となつた英文では“OR”であるところ、カンマの後が“OR”で続く場合は、カンマの前に記述された特定の言葉、すなわち、この場合、「三個の回転軸線を備えた接手」を別の表現で記述し直すときに用いられるのである。
3 本件明細書の記載は、昭和六〇年一一月二〇日の訂正審決によつて訂正されたが、「ユニバーサルジョイント」という言葉は、訂正によつて新たに特許請求の範囲に加えられたものである。訂正後の特許請求の範囲の記載中の「ユニバーサルジョイント」という言葉は、当初の明細書の中で用いられており、その解釈は、当初の明細書における意味に従つてされるべきである。本件特許権の特許権者は、訂正審判請求において、当初の明細書で用いていた表現を使つて特許請求の範囲を減縮したのであるから、特許権者の訂正の意思は、当初の明細書で用いていた「ユニバーサルジョイント」によつて特許請求の範囲を減縮しようとしたものと考えるのが自然であり、合理的である。
原告らは、「ユニバーサルジョイント」を「帆を回転及び起伏自在に波乗り板に連結するジョイント」であると主張したいようであるが、特許権者は、訂正審判請求で特許請求の範囲の記載を「ジョイント」ではなく「ユニバーサルジョイント」と限定することを求めたのである。原告ウインドサーフインは、本件発明の特許の無効審決が確定することを避けるため、特許請求の範囲を減縮して訂正審判を求めたが、そのときに、訂正審決が迅速、確実に出されることを期して訂正審判請求書記載のとわりの減縮を行つたにもかかわらず、訂正審決が出されるや、裁判所においては、自ら行つた「ユニバーサルジョイント」の限定を無視し、これをあたかも「ジョイント」と同意義に拡張解釈して権利行使をしようとしているのである。このような行為は、いわゆる包袋禁反言の法理に照らし、許されるべきものではない。
4 本件発明の特許に対しては、昭和五五年一〇月一一日、訴外株式会社プロを請求人として無効審判請求(昭和五五年審判第一八八一四号。プロ事件)が行われ、これに対して、特許庁は、同五八年五月二七日、本件発明の特許を無効とする審決を行つた。原告ウインドサーフインは、同審決の取消を求めて東京高等裁判所に出訴はしたが、特許無効を回避するため、昭和五八年七月二七日、訂正審判請求を行つたのである(株式会社プロは、その後、原告ウインドサーフインと和解をし、前記無効審判請求を昭和六〇年八月一二日、取下げている。)。右訂正審判請求に対し、昭和六〇年一一月二〇日、訂正審決がされた。
前記無効審決は、当初の明細書の記載が不明瞭で、「本体装置」、「風力推進装置」、「制御」及び「旋回」等の意味が不明瞭であるから、特許法三六条四項の要件を満たしておらず、また、当初の明細書の特許請求の範囲の記載が発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載していないから、同条五項の要件を満たしておらず、無効であると判断した。更に、特許庁は、構成の記載上不備のない発明を想定しても、同発明は本件発明の特許出願に対応するアメリカ合衆国における優先権出願日以前である昭和四〇年八月二三日にわが国の国立国会図書館に受け入れられた「ポピユラーサイエンス」一九六五年八月号一三八頁ないし一四一頁に開示された発明と同一であると判断した。
訂正審判請求人(原告ウインドサーフイン)は、右の訂正審判請求において、特許請求の範囲の記載をはじめ合計三五箇所にわたる訂正を請求した。その訂正審判請求書には、特許請求の範囲の記載の訂正中、「風力推進手段」の構成の限定に関して、次のように記述されている。「上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおりの「円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える」ものであることを特許請求の範囲の記載中で明らかにすることは、(原本の特許請求の範囲に風力推進装置として記載されていた)上記風力推進手段の構成を限定するものであり、この限定は特許請求の範囲の減縮に該る。」。また、発明の詳細な説明の訂正を正当化する理由の中で、次のように記述している。「訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置である」。
特許権者は、右の訂正審判請求において、特許請求の範囲の記載中、風力推進手段が「ユニバーサルジョイント」によつて限定されるように訂正を申立てたのである。特許権者は、本件発明の特許の無効確定を回避するために、当初の明細書中に存在した「ユニバーサルジョイント」の概念によつて、特許請求の範囲を減縮した。「ユニバーサルジョイント」による限定が明細書中の実施例の記述に根拠を有していることは、特許権者が前記訂正審判請求書中で明らかにしているとおりである。
原告らは、前記訂正審判請求で自ら「ユニバーサルジョイント」の限定を求めておきながら、訂正審決が得られるや、「ユニバーサルジョイント」の限定を無視し、実質上「ユニバーサルジョイント」を「ジョイント」一般に拡張解釈しようとしているのである。「ユニバーサルジョイント」という概念は、「ジョイント」のような広い概念ではない。「ユニバーサルジョイント」には、当業者が通常想起する概念が存在し、当初の明細書が特別の説明左くこの用語を用いていた状況の下で、特許権者は、「ユニバーサルジョイント」という概念を用いて本件発明の特許の無効確定を回避するため、自ら特許請求の範囲を減縮したのである。
このような本件発明の特許の訂正審判の経緯にかんがみれば、一般の特許出願過程における包袋禁反言の法理が適用される場合と同様、本件発明の技術的範囲は、厳格に「ユニバーサルジョイント」が用いられた場合に限られるべきであつて、「ユニバーサルジョイント」を「ジョイント」一般に拡張解釈して定められるべきではない。
5 これに対して、被告製品は、マストとボードとが「ユニバーサルジョイント」によつて連結されていないので、本件発明の技術的範囲に属しない。
四 原告らの反論
1 被告の主張1について
本件発明の「ユニバーサルジョイント」は、明細書の訂正の前後を通じ、「例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」と明確に定義されており、訂正後の特許請求の範囲においては、風力推進手段を構成する各部材を明確に特定し、その一部材にユニバーサルジョイントが存在することが明言されただけのことである。本件明細書の特許請求の範囲の項にも、「ユニバーサルジョイント」について、「帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように該円柱を前記波乗り板に連結する」ものであると、具体的かつ明確に定義されているのである。したがつて、被告が主張するように、既存のユニバーサルジョイントは自在継手のことを意味する、そして、自在継手は、二つの軸を結合する継手を意味するから、本件発明の「ユニバーサルジョイント」は、既存の自在継手に更に一軸を付加して特殊な「ユニバーサルジョイント」という意味で用いていることは疑問の余地がないなどと回りくどい論理を駆使する必要もなければ、また、右論理自体、矛盾に満ちたものであつて、成り立たない。
2 被告の主張2ないし4について
被告は、本件特許権の特許権者は、訂正審判請求において、当初の明細書で用いていた表現を使つて特許請求の範囲を減縮したのであるから、特許権者の訂正の意思は、当初の明細書で用いていた「ユニバーサルジョイント」によつて特許請求の範囲を減縮しようとしたものと考えるのが自然であり、合理的であるという。被告の右主張は、それ自体は正しいものである。すなわち、本件発明の特許請求の範囲は、訂正審判において、いくつかの訂正がされ、その一つにおいて、風力推進手段の構成も、「円柱と、該円柱に長い端縁部で取り付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする」と明確にされ、かつ、減縮された。しかし、「ユニバーサルジョイント」は、訂正の前後を通じ、その構造、機能及び意味内容において何らの変更もなく、実施例中において定義されているように、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」なのである。したがつて、右訂正の実体を正しく理解しさえすれば、本件発明の特許請求の範囲記載中の「ユニバーサルジョイント」が、「帆を波乗り板上で回転及び起伏自在にさせることができるように円柱を波乗り板に連結する」部材を意味していることは自明のことである。このように、訂正審判請求自体は、本件発明の「ユニバーサルジョイント」に何らの変質を与えるものでもなく、被告の主張するような「自在継手」に減縮されたなどという論理は、およそ、どこからも生まれてこないのである。
3 被告の主張5について
以上に述べたこと、被告製品のゴム・ジョイントkの構造及び作動態様から明らかなとおり、被告製品のゴム・ジョイントkは、本件発明の「ユニバーサルジョイント」そのものであつて、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属するものである。
第三 証拠関係
本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1(一)の事実(原告ウインドサーフインが本件特許権を有していたこと)は、当事者間に争いがない。
同1(二)の事実(原告勝和機工の実施権)については、成立に争いのない(本件においては、後記認定に供する甲号各証及び乙号各証は、いずれも成立について当事者間に争いがないので、以下書証の成立の真正についての摘示を省略する。)甲第一号証(特許登録原簿記録事項証明書)によれば、原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウインドサーフインから、昭和四九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から一〇年間とする専用実施権の設定を受け、昭和五六年三月二七日にその登録がされたこと、その後、昭和五九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から特許権存続期間満了(昭和六一年五月三一日)までとする専用実施権の設定を受け、昭和六一年一月二七日にその登録がされたことが認められる。
二 請求の原因2の事実(本件明細書の特許請求の範囲の記載)は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と甲第二号証(本件訂正公報)によれば、本件発明の構成要件は、請求の原因4(一)(1)のとおりであると認められる。
三 請求の原因3の事実(被告による被告製品の販売)は、被告製品の一部について当事者間に争いがない。
四 そこで、仮に被告製品のすべてが別紙目録記載のとおりのものであるとして、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 被告製品が本件発明の構成要件A及びBを充足することは当事者間に争いがない。原告らは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」は、本件明細書の特許請求の範囲において「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」と定義され、発明の詳細な説明の項においても、特定の実施例において「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」と定義されているものであるから、被告製品のゴム・ジョイントkは本件発明のユニバーサルジョイントに該当し、したがつて、被告製品は、本件発明の構成要件Cを充足する旨主張し、これに対して、被告は、本件発明のユニバーサルジョイントとは、実施例に示されているようないわゆる機械的構造の継手を意味するから、被告製品のゴム・ジョイントkはこれに該当せず、したがつて、被告製品は、右構成要件Cを充足しない旨主張するので、この点について審案する。
2 甲第二号証によれば、次の各事実を認定することができる。
(一) 本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所としては、まず、特許請求の範囲の項において、「……該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(五頁右欄一七行ないし二一行。本件訂正公報における頁行を示す。この項において以下同じ。)との記載があるほか、発明の詳細な説明の項において、(1)「本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(三頁右欄一行ないし一二行)、(2)「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」(三頁右欄一三行ないし一七行)、(3)「第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。」(三頁右欄三三行ないし四頁左欄三行)、(4)「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント63は全体を不銹銅で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。」(四頁左欄二〇行ないし二五行)、(5)「操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジョイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。」(四頁右欄四四行ないし五頁左欄二行)、(6)「本発明によれば、風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手を離せば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ倒れ、波乗り板を安定させ、その転ぶくを防ぐことができる。」(五頁右欄四行ないし九行)との各記載があり、また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「第2図は第1図の線2-2における帆の回転及び起伏に使用するユニバーサルジョイントの断面図」(一頁左欄二行ないし四行)との記載がある。図面としては、風力推進装置の外観図である第1図(六頁)中に三軸線ユニバーサルジョイント36が記載されているが、同図ではその構造は不明であり、第2図(五頁)は、三軸線ユニバーサルジョイントの断面図であつて、その詳細な構造を明らかにしている。
(二) 本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」として具体的にその構造が示されているものは、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントのみであつて、その構造については、願書添付の図面に記載されており(本件明細書五頁2図)、また、その説明として、発明の詳細な説明の項において、「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹銅で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹鋼製管46の短い区面の両側に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。不銹鋼の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きビン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。長さ3インチ(七六・二mm)、直径1/4インチ(六・三mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから座金72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレビス58のペースを充分な遊びをおいて保持し、クレビス58を座金72に接触して回転可能としている。前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ペース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ペース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄二〇行ないし同頁右欄一五行)と記載されている。
3 右認定の事実によれば、本件明細書の特許請求の範囲の項には、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」との記載があるところ、原告らは、右記載をもつて本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成が具体的かつ明確に定義されていると主張する。しかし、右記載は、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能を説明したにすぎないものであつて、これがいかなる構造のものであるか、その構成については何ら説明するものではない。
次に、発明の詳細な説明の項においては、まず、右同様の記載(前記2の認定事実(一)中の(1)の記載)があるが、この記載が「ユニバーサルジョイント」の構成を何ら説明するものではないことは、既に述べたのと同様である。このほかに、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」との記載(同(2)の記載)があり、右記載について、原告らは、「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」というのが「ユニバーサルジョイント」の特定の実施例であることを示しており、これによつて本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成を明確にしていると主張し、これに対して、被告は、右記載は、実施例として「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」があり、これを別の表現で記述し直すと、「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」であることを示しているものであると主張する。右記載において示された「ユニバーサルジョイント」の実施例がいかなる範囲のものを指すかについての判断はしばらくおくとしても、仮に原告ら主張のように「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」というのが「ユニバーサルジョイント」の特定の実施例であるとしたところで、右記載からは、「ユニバーサルジョイント」の実施例として「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、いわゆる三軸線ユニバーサルジョイント(その構造については、前認定のとおり、発明の詳細な説明の項及び図面において明らかにされている。)が含まれることは明らかとなるものの、「又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」については、その作用ないしは機能を述べるだけで、具体的にどのような構成のものがこれに当たるかは一切明らかでない(前認定のとおり、本件明細書においては、三軸線ユニバーサルジョイントのほかには具体的な構成を明らかにする記載は、一切存在しない。)。また、「風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及起伏自在に波乗り板に連結したことにより、」との記載(同(6)の記載)についても、同様に、この記載によつては、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能は明らかとされているが、その構成は一切明らかでない。発明の詳細な説明の項におけるその余の「ユニバーサルジョイント」の記載(同(3)、(4)、(5)の各記載)は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造を説明するものである。
また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられているものの、第2図においてその構造が示されているのは、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントである。
そして、前認定のとおり、本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所は以上ですべてであつて、また、「ユニバーサルジョイント」の実施例についても、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造が明らかにされているだけであつて、それ以外の継手について、その構造を明らかとするような説明文も図面も一切存在しない。
以上のとおり、本件明細書におかて用いられている「ユニバーサルジョイント」の語については、右に認定した以上に、右明細書上においてその内容ないし構造が説明あるいは図面によつて明らかにされているものとはいえない。
以上によれば、本件明細書においては、特許請求の範囲はもちろん、発明の詳細な説明の項及び図面を子細に検討しても、「ユニバーサルジョイント」については、風力推進手段を回転及び起伏自在に波乗り板に連結する作用ないしは機能を有するものであることが明らかにされているだけであつて、その構成については、その実施例として、唯一、三軸線ユニバーサルジョイントの構造が説明及び図面によつて示されているにすぎない。
4 そして、他方、仮に被告製品のすべてが別紙目録記載のとおりのものであるとしても、被告製品においては、本体装置(ボード部)aとマストcとがゴム・ジョイントkによつて連結されており、ゴム・ジョイントkの構造は、別紙目録の第2図、第3図及び図面の説明の項並びに別紙目録の構造の項2、4記載のとおりである。
5 そこで、被告製品におけるゴム・ジョイントkを本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の実施例としてその構造が明らかにされている三軸線ユニバーサルジョイントと比較すると、右三軸線ユニバーサルジョイントは、前認定(前記2(二)記載)のとおり、頭付きピン48により円柱12と管46とを連結し、頭付きピン48と直交する頭付きピン62により管46とクレビス58とを連結し、更にこれを丸頭のねじ68により回転可能に波乗り板10に取り付ける方法により風力推進手段と波乗り板を連結するものであつて、頭付きピン48と頭付きピン62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、円柱12を各回転軸のまわりに回転可能とすることを通じて、波乗り板10上で起伏させることを可能としているが、他方、被告製品のゴム・ジョイントkは、上方部分であるマスト受部と、中間部分であるゴム製屈曲部とからなり、マスト受部は、ゴム製屈曲部に対して中心軸線(ピン)の周りに回転できるように連結されており、ゴム製屈曲部は、全方向に起伏自在となつているものであつて、ゴム製屈曲部の材質自体の特性である弾性を利用することによつて前後左右の方向への屈曲傾斜を可能としているものであり、前記三軸線ユニバーサルジョイントにおける相互に直交する水平の二軸に相当する構造は存在しない。右によれば、被告製品におけるゴム・ジョイントkと本件明細書における三軸線ユニバーサルジョイントとでは、風力推進手段を本体装置上で起伏自在とする構成において、技術的思想を異にするものというべきである。
6 そして、前述のとおり、本件発明における「ユニバーサルジョイント」について、本件明細書においてその構成が明らかにされているのは、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントだけであることからすれば、少なくとも、被告製品におけるゴム・ジョイントkのように、構成部材の材質の弾性を利用することによつて前後左右の方向への屈曲傾斜を可能とする構造については、本件明細書においてその技術事項の開示があるものと認めることができない。
したがつて、被告製品のゴム・ジョイントkは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」に該当するものとはいえない。
7 このことは、次の点からも明らかである。
すなわち、甲第三号証によれば、当初の明細書の特許請求の範囲の項には、「1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」(本件公報三頁6欄一四行ないし一九行)と記載されていて、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられておらず、発明の詳細な説明の項には、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の後記記載(同一頁2欄二五行ないし二九行)、同(4)と同一の記載(同二頁3欄三八行ないし四三行)及び同(5)と同一の記載(同三頁5欄五行ないし入行)はあるものの、同(1)、(3)及び(6)に対応する記載はいずれもなく、他に「ユニバーサルジョイント」の語を用いた記載はない。図面の簡単な説明の項には前記2の認定事実(一)とほぼ同一の記載(同一頁1欄二〇行ないし二二行)があり、願書添付の図面についても、同(一)と同一の図面であることが認められる。
右のとおり、当初の明細書においては、特許請求の範囲の項に「ユニバーサルジョイント」の語はなく、また、前記2の認定事実(一)の(4)及び(5)と同一の記載中の「ユニバーサルジョイント」は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを意味するものである。したがつて、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを離れての「ユニバーサルジョイント」の語は、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の記載である「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が速結されている。」との記載部分だけに存在することになる。そこで、右部分において「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を検討するに、まず、右記載中の、「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」との関係については、後音は具体的な構造を離れて抽象的な作用ないしは機能を説明する記載であつて、その意味する範囲は広範であり、前者も包含するものである。このように、「三個の回転軸線を備えた接手」が「健用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」に包含される関係にある以上、両者が、共に「ユニバーサルジョイント」の例示として、接続詞「又は」によつて結ばれる並列的な関係に立つものと解することはできない。そして、前記のような両者の内容的な関係にかんがみれば、通常の用語法としては、むしろ、「ユニバーサルジョイント」の例示としては「三個の回転軸線を備えた接手」のみであつて、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と、それ以外の「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とが、接続詞「又は」によつて並列的に結ばれているものと解するのが相当である。そうであれば、当初の明細書においては、「ユニバーサルジョイント」について、その例示として「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、三軸線ユニバーサルジョイントが挙げられているだけであつて、「ユニバーサルジョイント」以外にも「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」が存在することになる。右のとおり、「ユニバーサルジョイント」は、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のすべてではなく、そのうちの一部を指すものである以上、その意味する範囲は、例示されている唯一の例である三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。
そして、当初の明細書の特許請求の範囲の項の記載は、前記のとおりであつて、そこでは風力推進装置と本体装置とを連結する継手については何ら触れられていないから、右記載からは、継手として「ユニバーサルジョイント」を用いたものであつても、それ以外のものを用いた場合であつても、特許請求の範囲に含まれ得ることになる。
当初の明細書における「ユニバーサルジョイント」の意味が右のようなものである以上、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づく訂正後の本件明細書においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、他に特段の事情のない限り、右と同一の内容を意味するものとして理解すべきものというべきである。そして、本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」の語について、その内容を定義した記載が新たに加えられたような事情のないことは、既に認定した事実により明らかであるから、結局、本件明細書における「ユニバーサルジョイント」の語は、当初の明細書におけるのと同様、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを回転により起伏を自在とする機械的構造のものに該当しないことは、前述のとおりであるから、被告製品は、本件発明における「ユニバーサルジョイント」を備えるものとはいえないことになる。
8 右に述べたところは、本件発明の出願経過及び訂正審判の経過をみるとき、一層明らかとなる。すなわち、甲第一ないし第三号証、乙第三及び第四号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認定することができる(この認定を左右するに足りる証拠はない。)。
(一) 昭和四四年三月一一日の本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書(当初の明細書)の特許請求の範囲の項の記載は、「1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」(本件公報三頁6欄一四行ないし一九行)というものであり、同明細書の発明の詳細な説明の項及び願書添付の図面の記載の内容は、前記7において認定したとおりである。
(二) 本件特許権が昭和四七年一月一一日に登録された後の、昭和五五年一〇月一一日に株式会社プロは、本件特許権について無効審判請求をした(昭和五五年審判第一八八一四号。プロ事件)。
(三) 右プロ事件の無効審判請求の後である、昭和五七年二月二六日に原告ウインドサーフインは、本件特許権につき最初の訂正審判請求(昭和五七年審判第三三二〇号。第一次訂正審判請求)をした。
(四) 昭和五八年五月二七日、プロ事件において、本件発明の特許を無効とする審決がされたが、その理由としては、当初の明細書においては、例えば、「旋回自在に協動して」は、その記載と関連づけて実施例の構成が説明されておらず、どのような構成を意味するのか不明瞭であるなど、その記載中に意味の不明瞭な記載が多々存在し、その記載では、「本体装置」、「風力推進装置」、「制御」及び「旋回」等の意味が不明瞭であるから、本件発明の「風力推進装置」の構成が不明瞭であり、また、本件発明の構成に対応する本件発明の目的及び効果も不明瞭であつて、当初の明細書は、特許法三六条四項に規定する要件を充たしていないこと、更に、特許請求の範囲に記載された「旋回可能に協動し」、「前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき」及び「前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うこと」等と関連づけて実施例の具体的構成が説明されておらず、これらの記載がどのような構成を意味するのは不明瞭であり、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項とはいえないなど、当初の明細書はその特許請求の範囲に、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載していないから、当初の明細書は、特許法三六条五項に規定する要件を充たしていないことが挙げられている。
(五) 原告ウインドサーフインは、昭和五八年七月二七日に前記第一次訂正審判請求を取り下げ、同日、新たな訂正審判請求(昭和五八年審判第一六五七七号。第二次訂正審判請求)をしたが、その内容は、当初の明細書の特許請求の範囲の項の記載を、本件明細書記載のとおりの「1 使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(本件訂正公報五頁右欄一一行ないし二一行)と訂正し、発明の詳細な説明の項の記載についても、本件明細書記載のとおりの内容に訂正するというものであつた(図面についての訂正は請求していない。)。
そして、右第二次訂正審判請求の訂正審判請求書において、原告ウインドサーフインは、右の特許請求の範囲の項の記載の訂正は、「下記理由により、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする」(同訂正審判請求書一一頁一七行ないし一八行)ものであるとしたうえ、「c)さらに、上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおりの「円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える」ものであることを特許請求の範囲の記載中で明らかにすることは、(原本の特許請求の範囲に風力推進装置として記載されていた)上記風力推進手段の構成を限定するものであり、この限定は特許請求の範囲の減縮に該る。 d)乗物の一例として波乗り板が含まれること、及び風力推進手段が円柱、帆、一対のブームおよびユニバーサルジョイントを備えることは、原本の発明の詳細な説明の欄に記載され、また、添付図面を参照しての実施例の説明に示されており、従つて、本体装置及び風力推進手段を上記のように限定することは、原本の特許請求の範囲に記載されていた構成事項を、原本の発明の詳細な説明の欄に記載されていた事項に又はその事項により特定するものであると共に、これによる特許請求の範囲の訂正の前後において発明の目的は同一であるから、上記訂正による特許請求の範囲の実質変更には該らない」(同訂正審判請求書一四頁二行ないし一五頁一〇行)から、右訂正は、「特許請求の範囲における明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とし、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない」(同訂正審判請求書一五頁一一行ないし一四行)と主張している。更に、当初の明細書の発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関しても、「使用者を支持するようになつた乗物の本体装置と、前記本体装置と旋回自在に協動して風を推進力として受け入れるようになつた風力推進装置を包含する風力推進機を提供する。前記風力推進装置の位置は使用者によつて制御することができ且つこのような制御を行わないとき旋回抵抗力が殆んどなくなる。」(本件公報一頁2欄一八行ないし二四行)を「本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(本件訂正公報三頁右欄一行ないし一二行)とする訂正につき、右「訂正は、本発明が提供するのは訂正後の特許請求の範囲に記載された構成による風力推進装置であるところ、原本の記載のままでは対応関係が不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、この訂正は特許請求の範囲の減縮と明瞭でない記載の釈明とを目的とする。」(同訂正審判請求書二一頁一〇行ないし一五行)と主張し、「波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18」(本件公報二頁3欄一九行ないし二〇行)を「使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを」(本件訂正公報三頁右欄三三行ないし四頁左欄二行)とする訂正につき、右「訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、この訂正は特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」(同訂正審判請求書二三頁一六行ないし二四頁二行)と主張し、「取付けられている。」(本件公報二頁4欄一三行ないし一四行)の次に「前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄四二行ないし同頁右欄二行)を加え、「回転可能にしている。」(本件公報二頁4欄二二行ないし二三行)の次に「前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁右欄一一行ないし一五行)を加えることは、「それぞれ、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置を構成する風力推進手段の円柱がユニバーサルジョイントにより波乗り板に連結されることにより、帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ、これがされていない原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」(同訂正審判請求書二五頁三行ないし一三行)と主張している。
(六) その後、プロ事件について、昭和六〇年八月一二日、請求人株式会社プロは、無効審判請求を取り下げた。
(七) そして、原告ウインドサーフインの右第二次訂正審判請求が認められて、昭和六〇年一一月二〇日、訂正審決がされた。右訂正審決によつて訂正された明細書が、本件明細書である。
右認定の事実によれば、原告ウインドサーフインは、プロ事件において本件発明の特許を無効とする審決がされた後に、第一次訂正審判請求を取り下げて、第二次訂正審判請求をしたものであるところ、右第二次訂正審判請求において、特許請求の範囲の記載を「ユニバーサルジョイント」の語を含むものに訂正し、右訂正は「明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする」ものであると主張している。当初の明細書における「ユニバーサルジョイント」の語が、前記のとおり、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものであるから、右第二次訂正審判請求書においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、他に特段の事情のない限り、右と同一の内容を意味するものとして理解すべきものというべきである。そして、右訂正審判請求書において、「ユニバーサルジョイント」の語について、その内容を定義した記載が新たに加えられたような事情のないことは、既に認定した事実により明らかであるから、結局、右訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」の語の意味するところは、当初の明細書におけるのと同様、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりに自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。
したがつて、右第二次訂正審判請求に基づく訂正審決によつて、「ユニバーサルジョイント」の語を特許請求の範囲に持ち込むことにより、風力推進手段と本体装置とを連結する手段の構造をも構成要件の一つとした本件発明は、訂正前の当初の明細書における特許請求の範囲を減縮したものであり、連結手段として、前記のような「ユニバーサルジョイント」を用いているものだけが、特許請求の範囲に含まれるというべきである。
なお、第二次訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を前記のように解すべきことは、原告ウインサーフインの、右訂正審判請求書における、発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関する主張の内容に照らしても明らかである。すなわち、前記(五)で認定のとおり、原告ウインドサーフインは、右訂正審判請求書において、発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関し、「波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18」(本件公報二頁3欄一九行ないし二〇行)を「使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを」(本件訂正公報三頁右欄三三行ないし四頁左欄二行)とする訂正につき、右「訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、この訂正は特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」と主張し、更に、「取付けられている。」(本件公報二頁4欄一三行ないし一四行)の次に「前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄四二行ないし同頁右欄二行)を加え、「回転可能にしている。」(本件公報二頁4欄二二行ないし二三行)の次に「前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁右欄一一行ないし一五行)を加えることは、「それぞれ、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置を構成する風力推進手段の円柱がユニバーサルジョイントにより波乗り板に連結されることにより、帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ、これがされていない原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」と主張しているのである。右のとおり、「訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置である。」と述べ、あるいは、「訂正後の特許請求の範囲に記載された……帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ」と述べて、それぞれ、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントについての記載を付加していることからすれば、結局、原告ウインドサーフインは、特許請求の範囲における「ユニバーサルジョイント」の作用をもたらすべき構成の開示としては、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造がこれに該当するものとして、第二次訂正審判請求をしたものというべきである。したがつて、第二次訂正審判請求書における右記載からも、右訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」は三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。
9 以上によれば、被告製品は、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」を備えておらず、構成要件Cを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しないものというべきである。
五 よつて、原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 若林辰繁 裁判長裁判官房村精一は転官のため、裁判官三村量一は海外出張のため署名捺印することができない。 裁判官 若林辰繁)
目録
別紙図面及び説明書に示すとおりの「風力推進波乗り装置(セイリングボード)」(商品名は、別紙「商品名一覧表」に記載したとおり)
第1図
<省略>
第2図
<省略>
<省略>
説明書
一 別紙図面の説明
(一) 第1図は風力推進装置(セイリングボード)の側面図、第2図はゴム・ジョイントの構造断面図(添付写真は、ゴム・ジョイントの形状及び構造を示している)である。
(二) 各図の符号は、それぞれ、次のとおりの各部材を示す。
本体装置(ボード部)・・・・・・・・・・・・ a
セイル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ b
マスト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ c
ブーム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ d
ウインドウ ・・・・・・・・・・・・・・・・ e
切欠 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ g
マストスリーブ ・・・・・・・・・・・・・・ h
プームジョーアゥト ・・・・・・・・・・・・ i
ブームジョーイン ・・・・・・・・・・・・・ j
ゴム・ジョイント ・・・・・・・・・・・・・ k
フツトストラツブ ・・・・・・・・・・・・・ l
テイル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ m
ダガボード ・・・・・・・・・・・・・・・・ n
スケグ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ o
二 構造
1 波乗り板を形成する本体装置(ボード部)aの下面後方にはスケグ・が装着されている。
2 本体装置(ボード部)aにはゴム・ジョイントkの下端部が結合され、ゴム・ジョイントkの上部にはマスト・の下端部が嵌合されている。
3 マストcにはウインドウeを有するセイルbの一辺のマストスリーブ(筒状部)hが嵌装され、セイルbの両側には二本のブームdが配設され、二本のブームdはマスト側(イン側)およびセイル端側(アウト側)の所定の位置でブームジョーインjおよびブームジョーアウト1によつて連結され、ブーム部のイン側はマストcに、アウト側はセイル先端部に固定されている。
4 ゴム・ジョイントkは、全体に二つの部分、すなわち、上方部分であるマスト受部と、中間部分であるゴム製屈曲部とからなる。マスト受部は、ゴム製屈曲部に対して中心軸線(ピン)の周りに回転できるように連結されており、ゴム製屈曲部は、全方向に起伏自在となつている。
三 作動態様
1 本体装置(ボード部)a上には使用者不在で、風力推進手段が旋回防止力を失い、水上に浮遊している状態から始まる。この状態においては、ゴム・ジョイントkは、その中間部分が屈曲し、ゴム・ジョイントkに嵌合されたマストcとマストcに装着されたセイルbは、水面上に倒れている。
2 使用者は、本体装置(ボード部)a上の所定の位置に立つてマストcを引き起こし、セイルbの片側に配設されたブームdを両手でにぎつて、マストcに装着されたセイルbの位置を制御する。
3 使用者は、両手でにぎつたブームdを押し、引き、回転させて風向きに対し、セイルbを所望の位置に制御し、セイルbに必要な風力を受け入れてボードを望ましい方向に進行させる。この場合、セイルbの装着されたマストcと嵌合するゴム・ジョイントkは、使用者が操作するブームdの動きに応じ、ゴム・ジョイントkの軸線を中心として回転運動をし、また、前後左右の方向に所定の角度で屈曲し、傾斜する。
4 本体装置(ボード部)aの下面に装着されたスケグ・は、水中にあつてボードの直進性を保持している。
5 使用者は、ウインドウeを通して、反対側の状況を知ることができる。
6 操縦中に、突然の強風が襲つた場合など、転覆の危険が発生したときは、使用者は、ブームdから両手を放し、セイルbを風下に倒れさせて風力を回避する。
商品名一覧表
DUFOUR WING
SUN
BIC STAR
TEEN
SHOW
KEN WINNER
HERVE BORDE
TIGA ONE
ONE HAWAII STD
ONE RAWAII NP
FUN CUP
FUN OUP Ⅱ
SPRINT
JUMP
SPEED
JIBE
PRO
GUN
RACE 八五
SWIFT
SLALOM
WAVE
訂正明細書
<34>風力推進装置
図面の間た説明
第1図に本発明の風力推進装置の外観図、第2図は第1図の2-2における帆の回転及び起伏に使用するユニバーサルジョイントの断面図、第3図は第1図の3-3におけるブームとブームとの間の円柱間接合部の断面図、第4図は第1図の4-4におけるブームとブームとの間の帆は間接合部の断面図である。
発明の詳細な説明
本発明に風力推進装置に係る。
本発明が関係する分野に船等に帆船の分野である。
風力推進はボートや氷上ボートばかりでなく波乘り板のような船や陸上乘物例えば氷上ボートやそり、すなわち一般的に言えば任意の軽量な小型ボートの動力装置としても考えられてきた。普通に乗物に垂直に固定しているマストに帆を設けるか又は帆とマストを操帆装置と制御の細工にからせている。
帆を波乘り板に固定することによつてこの波乗り板としての楽しみに失われ且つ従来制御のために必要であつた熟練はもはや必要でなくなる。人々に軽量な帆船の速度と感じを得る代りに帆船を制御するに適当な熟練が必要となる。横ゆれに対する安定性がない波乗り板に帆を取付けることによつて突風や激風によつて波乗り板が転ぷくする問題が発生する。
故に従来は備えていなかつた風力推進手段を波乗り板に設け、この風力推進手段を設けることによつて波乘り板の元の乗心地や波乗り板を突風や激風下で転ぷくさせない制御特性を失わないようにすることが必要である。
本発明の目的は風に対する感応性と速度を増大し且つ波乗り板の従来乘心地と操縦性すなわち削減性を増強してそれから得られるたのしみを増すようになつた風力推進手段を波乘り板に取けることである。本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として帆を受け入れる風力推進力手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長いで取付けられた帆と、前記円柱のに方向にされ、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一で前記円柱にまた他で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることをとする、風力推進装置を提供する。
特定の連結例において、ユニバーサルジョイント例えば3個の回転を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆ど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乘り板に風力推進手段の円柱が連結されている。
本発明に波乗り板にうまく利用できる。波乗り板のような横ゆれに対する安定性の低い船にせかせ装置を設けることができる。せかせと言う言葉は航海技術者に公である中央板とダガボード(docger-bonril)を含み、また安定性を増すために船体かららに又はななめに水中に突入したその他の突起物をも含んでいる。
本発明に殆どすべてのとかじとりを帆を通じて行い、かじやその他の操縦機構を設けても良いが無くてもよい。帆をあやつることによつて加速、方向転換、上手回しを行うことができる。しかし乍ら帆は回転及び起伏自在になつているから使用者が帆を保持して船を安定させねばならない。突風又は激風時に使用者は帆をせば、帆は直ちに風力を受けない方向に移動する。
第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。前記波乗り板10はその口22の中に挿入され且つその底部から斜めに突出したダガボード20をせかせとして備えている。前記ダガボード20の上部は波乗り板10の上面28を充分超えてのび、あとから充分に説明するように円柱12を枢着するための台29を提供している。
円柱12は丈夫な丸い細長いフアイバグラスの軸であり、この場合この軸に軽くするため中空になつているが中実な木や金属で作つて良く、その下端に円筒状の木製ベース27をくさび止めしてある。前記円柱12は帆14の揺動自在マストとなり、且つ帆14の長い端縁部31に沿つて上方に傾斜したへり30の中に挿入されている。前記帆14の底部は、円柱12に近い帆14の下端縁にあるアイレツト34の中に入つているロープ32によつて、前記円柱12に取付けられている。
第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36に全体を不銹鋼で作り且つ不ねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹鋼製管45の短い区面の両側に配置されている。1/4インチ(6.3mm)直径の頭付きピン48か前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツダ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。
不銹鋼の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に6配置されている。1/4インチ(6.3mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの鋼面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回軽することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏することができる。
長さ3インチ(76.2mm)、直径1/4インチ(6.3mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから72をその下の台29のほそ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がグレビス58のベースを充分なびをおいて保持し、クレビス58を72に接触して回転可能にしている。前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27にこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。
第1図と第3図を参照すれば、波乗り板10の表面28から4フイート(120)のところに木製ブーム16、18を円柱の横方向に設け、且つそれらのを弓形に連結してある。前記ブームの円柱のに1インチ(25.1mm)のテープのループ80によつて互に連結され且つ円柱12を間に入れて該円柱に連結されている。このテープループ80は帆のへり30の三日月形の孔82を通る円柱12を取り巻いている。前記テープループ80はい付け86によつて両端にリング84を保持している。このリング84は木ねじ90によつてブーム16、18に固定した製のフツク具88と係合することによつてテープ80をブーム16、18に固定する。
第1図と第4図を参照すればブーム16、18はそれらの他端部において帆耳の端部にそれぞれ出しの孔92、94を備え、またねじ99によつてブーム16、18に固定された止め96、98を備えている。出し100が一方のブーム18の止め98からそのブーム18の出し孔94を通り、帆耳104のした孔102を通り、第2ブーム16の出し孔92を通り、兩方の出し孔94、92を通りそこから別のブーム16の止め96に通される。これにより、ブーム16、18はそれらの他端部において互に連結され且つ帆耳に連結される。つぎに出しをびんとつて止め96によつてしめつけて帆14をブーム16、18の間に保持する。
操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジョイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。若し使用者が風下に進行していて方向転換したいとき、波は帆14を両方に傾け、風の力を波乗り板1Oの先端部に作用させ.帆14のどちらの側面が風にさらされているかに応じで、波乗り板10を三か右に方向させる.これに反して若し使用若が上手回し間切りをするために風にまともに向つていきたいとき波は帆14を後方に引いて風の力を波乗り板10の後方に作用させ、波乗り板10の後部を移動させて風にまともに向つていけるようにする.波が風にまともに向いているとき彼に平に帆14の前部に歩いて、反対側のブームをにぎつて帆を輿整して風が帆14を備え波乗り板10がらしいコースに入るようにすることによつて上手回しを完了する。速度を調整するため帆を前方と後方に移動させる.
突風によつて波乗り板1Oがひつくりかえろうとするおそれのあるとき使用者に平に帆をはなして風にまかせて危険を説する.帆14にその円柱にロープ106を備えており、これによつて使用者は客易に帆を帆定状態に引返りもどすことができる.
本発明の範囲からすることなく多くの変更を行うことができる。
本発明によれにば、風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介しで回転及び起伏自在に波乘り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手を放せば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ倒れ、波乗り板を安定させ、その転ぷくを防ぐことができる。
<34>特許公求の範囲
1 使用者を支持する本体装置である波乗り板と推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い部で取付けられた帆と.前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及ひ帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆にそれぞれ連結された一対のブームと.該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乘り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乘り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。
FIG.2
<省略>
FIG.3
<省略>
FIG.1
<省略>
FIG.4
<省略>
<50>Int.Cl. B 63 h <52>日本分類 84 E 8 84 J 21 日本国特許庁 <11>特許出願公告
昭46-19373
<10>特許公報 <44>公告 昭和46年(1971)5月31日
発明の数 1
<54>風力推進装置
<21>特願 昭44-18073
<22>出願 昭44(1969)3月11日
優先権主張 <32>1968年3月27日<33>アメリカ国<31>716547
<72>発明者 出願人に同じ
<71>出願人 ヘンリー・ホイール・シニバイツアー
アメリカ合衆国カリフオルニア州バシフイツク・バリセードス・ベイルート317
同 ジニームス・ロバート・ドレークアメリカ合衆国カリフオルニア州サンメ・モニカ・メサ・ロード385
代理人 弁理士 浅村成久 外3名
図面の簡単な説明
第1図は本発明の風力推進装置の外観図、第2図は第1図の線2-2における帆の旋回運動に使用するユニバーサルジヨイントの断面図、第3図は第1図の線3-3におけるブームとブームとの間の円柱側接合部の断面図、第4図は第1図の線4-4におけるブームとブームとの間の帆耳側接合部の断面図である。
発明の詳細な説明
本発明は風力推進装置に係る。
本発明が関係する分野は沿特に帆沿並びに氷上ボートと上乗物の分計を含んでいる。
風力推進はボートや氷上ボートばかりでなく波乗物り板のような沿や上乗物例えば氷上ボートやそり、すなわり一般的に言えば任意の軽量な小型ボートの動力装置としても考えられてきた。普通は乗物に垂直に固定しているマストに帆を設けるか又は帆とマストを帆装置と制御の工にからませている。
普通の帆のない乗物に帆を設ける効果はこの乗物を水上ボート又は上ボートにかえることである。すなわち帆を波乗り板に固定することによつてこの波乗り板とその楽しみは失われ且つ従未制御のために必要であつた熟練はもはや必要でなくなる。人々は軽量な帆沿の速度とじを得る代りに帆沿を制御するに適当な熟練が必要となる。帆をつけるように修正した別の乗物についても同じような変化が生ずる。横ゆれに対する安定性がない乗物に帆を取付けることによつて突風や散風によつて乗物が転ぶくする問題が発生する。
故に従未は備えていなかつた風力推進装置を乗物に設け、この装置を設けることによつて乗物の元の乗心地や制御特性を失わないようにすることが必要である。
本発明は風に対する感応性と速度を増大し且つ従未の乗心地と操縦性を増強してそれから得られるたのしみを増すようになつた風力推進装置を乗物に取付けることである。使用者を支持するようになつた乗物の本体装置と、前記本体装置と旋回自在にして風を推進力として受け入れるよになつた風力推進装置を包含する風力推進機を提供する。前記風力推進装置の位置は使用者によつて制御することができ且つこのような制御を行わないとき旋回抵抗力が殆んどなくなる。
特定の実施例において、ユニバーサルジヨイント例えば3個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手につて乗物本体に前記推進装置が連結されている。
前記風力推進装置は乗物の本件に枢着した円柱と、これに取付けた帆とを包含している。使用者が帆の片又は両囘を把持できるような装置を設けている。すなわち帆をびんと張るため円柱上に横方向に取付け手で保持するようになつたブームを設ける。特定の実施例において前記円柱にざまに且つ円柱を間に入れてアーチ次に連結される1対のブームを設ける。
本発明は水上や氷上ボートや上乗物に使用することができる。本発明はヨツトや小型自動車やカスーやこぎ等に使用できるが、波乗り板や氷上ボートやスケートボートやそりにもうまく利用できる。波乗り板のような横ゆれに対する安定性の低い沿にせかせ装置を設けることができる。せかせと言う言葉は航技術者に公知である中央板とダガボード(dagger-board)を含み、また安定性を増すために沿体から平らに又はななめに水中に突入したその他の突起物をも含んでいる。
発明は殆んどすべての操縦とかじとりを帆を通じて行い、かじやその他の操縦機構を設けても良いが無くてもよい。帆をあやつることによつて加速も方向転換も上手回しを行うことかできる。しかし乍ら帆は旋回自在になつているから使用者が帆を保持して沿を安定させねばならない。突風又は散風時に使用者は帆を離せば、帆は直ちに風力を受けない方向に移動する。
第1図を参照すれば波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18とを包含する風力推進装置が図示されている。前記波乗り板10はその本体部に設けた開口22の中に挿入され且つその底部から斜めに突出したダガボード20をせかせとして備えている。前記ダガボード20の上部は波乗り板10の上面28を幾分越えてのび、あとから充分に説明するように円柱12を枢着するための台29を提供している。
円柱12は丈夫な丸い細長いフアイバグラスの軸であり、この場合この軸は軽くするため中空になつているが中実な木や金で作つても良く、そ
端に円筒状の木製ベース27をくさび止めしてある。前記円柱12は帆14の揺動自在マストとなり、且つ帆14の長い端縁部31に沿つて上方に傾斜したへり30の中に挿入されている。前記帆14の底部は、円柱12に近い帆14の下端縁にあるイレフツト34の中に入つているローブ32によつて、前記円柱12に取付けられている。
第2図を参照すれば円柱12か三軸線ユニバーサルジヨイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジヨイント36は全体を不銹鋼で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている続め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記詰め板38、40はベース27の分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹鋼製管46の短い区画の両側に配置されている。<省略>インチ(6.3mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50.52の中をのび.頭付きビン48のニツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。
不銹鋼の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。<省略>インチ(6.3mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きビン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。
長さ3インチ(76.2mm)、直径<省略>インチ(6.3mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから座金72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り。これによつてクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレビス58のベースを充分な遊びをおいて保持し、クレビス58を座金72に接触して回転可能にしている。
第1図と第3図を参照すれば、波乗り板10の表面28から4フイート(120cm)のところに積層木製ブーム16、18を設け、且つそれらの端部を弓形に連結してある。前記ブームの円柱側の端部は1インチ(25.4mm)幅の織物テーブのルーブ80によつて互に連結され且つ円柱12に連結されている。このテーブルーブ80は帆のへり30の三日月形の孔82を通る円柱12を取り巻いている。前記テーブルーブ80はい付け86によつて両端に真論リング84を保持している。このリング84は、木ねじ90によつてブーム16、18に固定した真製のフツク具88と係合することにこつてテーブ80をブーム16、18に固定する。
第1図と第4図を参照すればブーム16、18はその帆耳の端部にそれぞれ出し索の孔92、94を備え。またねじ99によつでブーム16-18に固定された索止め96、98を備えている。出し索100が一方のブーム18の索止め98からそのブーム18の出し索孔94を通り、帆耳104の強した孔102を通り、第2ブーム16の出し索孔92を通り、南方の出し索孔94、92を通りそこから別のブーム16の索止め96に通される。つぎに出し索をびんと張つて索止め96によつてしめつけて帆14をブーム16、18の間に保持する。
操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジヨイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。若し使用者が風下に進行していて方向転換したいとき、彼は帆14を前方に傾け、風の力を波乗り板10の先端部に作用させ、帆14のどちらの側面が風にさらされているかに応じて、波乗り板10を左か右に方向転換させる。これに反して若し使用者が上手回し間切りをするために風にまともに向つていきたいとき彼は帆14を後方に引いて風の力を波乗り板10の後方に作用させ、波乗り板10の後部を移動させて風にまともに向つて行けるようにする。彼が風にまともに向いているとき彼は単に帆14の前部に歩いて、反対側のブームをにぎつて帆を調整して風が帆14を捕え波乗り板10がらしいコースに入るようにすることによつて上手回しを完了する。速度を調整するため帆を前方と後方に移動させる。
突風によつて波乗り板10がひつくりかえろうとするおそれのあるとき使用者は単に帆をはなして風にまかせて危険を説する。帆14はその円材にローブ106を備えており、これによつて使用者は容易に帆を帆走状態に引張りもどすことができる。
本発明の範囲から逸脱することなく多くの修正変更を行うことができる。
特許請求の範囲
1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。
FIG.1
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FIG.2
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FIG.3
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FIG.4
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特許審判請求公告
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特許公報
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